情報が十分集まりました。コラム記事を執筆します。

(お風呂と便器が買えない日本は大丈夫か? ホルムズ海峡「二重封鎖」とナフサ危機のリアル)

きのうまで当たり前だったお風呂が、きょう注文できなくなった。

TOTOが4月13日、ユニットバスとシステムバスの新規受注を停止した。
再開の見通しは、ない。
壁や天井のフィルム接着剤、浴槽のコーティング剤に使われる有機溶剤が足りなくなったからだという。

有機溶剤の原料はナフサ。
ナフサの約4割は中東から届く。
そしていま、そのナフサを運ぶホルムズ海峡は事実上の封鎖状態にある。

タカラスタンダードも同じ日、「原材料の調達が不安定で、長期化すれば納期・数量・価格に影響が出る」と発表。
リクシルは3日前の10日に、樹脂やアルミニウムの価格上昇と物流コストの急騰を訴え、出荷制限や価格改定もありうると説明していた。

TOTO株は一時8.8%安の5226円。
タカラスタンダード株も6%安、リクシル株は4.7%安。
住まいを支える企業の株価が、そろって沈んだ月曜日だった。

これはもう、遠い国の戦争の話ではない。
わたしたちの暮らしの、すぐそばで起きていること。

なぜナフサが届かないのか 決裂した停戦協議と「逆封鎖」の衝撃

話は2月末にさかのぼる。
2月28日、アメリカとイスラエルがイランに対して大規模な攻撃を開始した。
精密誘導爆撃は1500発以上。
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師が死亡したとされ、中東の秩序が一気に崩れた。

イラン革命防衛隊は3月2日、ホルムズ海峡の閉鎖を正式に宣言。
日本の大手海運3社――日本郵船、商船三井、川崎汽船はその日のうちに海峡の通航を止めた。
1日に120隻が通っていた海峡を、わずか5隻しか通れなくなった瞬間。

それから約1カ月半、世界中が注目していた停戦協議がパキスタンのイスラマバードで開かれた。
アメリカ側はバンス副大統領、ウィットコフ中東担当特使、トランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー氏ら。
イラン側はガリバフ国会議長とアラグチ外相。
10年以上ぶりとなる米イラン直接会談は、21時間にもおよんだ。

しかし、4月12日。
協議は合意に至らず終了した。

溝が埋まらなかったのは、核兵器の放棄とホルムズ海峡の扱い。
バンス副大統領は帰国前に「合意しなかった。イランにとってはるかに悪いニュースだ」と語り、イラン側は「アメリカの過度な要求が合意を妨げた」と反発した。

そしてきょう、4月13日。
トランプ大統領がさらに踏み込んだ。

イランが海峡を閉じているなら、アメリカ海軍が「逆封鎖」する――。
米中央軍は、日本時間のきょう午後11時から、イランの港に出入りするすべての海上交通に対する封鎖措置を始めると発表した。
イランに通航料を払った船があれば拿捕するとも警告している。

ホルムズ海峡が、イラン側とアメリカ側の双方から封鎖される異常事態。
中東からの石油の流れは、ますます細くなる。

「4カ月分は確保」の真実 政府と企業のあいだに広がるギャップ

では、日本政府はどう動いてきたか。

高市早苗首相は3月24日、首相官邸で中東情勢に関する関係閣僚会議を開いた。
ここで「26日から国家備蓄の石油放出を開始する」と表明。
過去最大規模の放出と報じられ、一定の安心感をもたらした。

4月5日にはXに「少なくとも国内需要4カ月分のナフサを確保している」と投稿。
一部報道が「6月にはナフサ供給が止まる」と伝えたことに対し、「事実と全く異なる」と強く否定もした。

さらに4月10日の関係閣僚会議では、国家備蓄石油の約20日分を5月上旬以降に追加で放出すると表明。
赤沢経産相も「年を越すのに必要な石油量は確保できる見通し」と発言している。

政府のメッセージは一貫して「大丈夫」という方向だった。
それ自体は、パニックを起こさないために大切なこと。

ただ、気になる点もある。

毎日新聞が報じたように、「4カ月分」にはナフサそのものの純粋な備蓄だけではなく、これから届く調達分や国内で精製できる分も含まれている。
つまり、いま手元にあるナフサの在庫が4カ月分あるという意味ではない。
シティグループ証券は「実際のナフサ備蓄は約20日分」と警告していた。

問題の本質は、数字の見せかたではなく、サプライチェーンの「目詰まり」にあるとわたしは思う。

国内にエチレンを生産する設備は12基。
そのうち少なくとも6基がすでに減産を強いられている。
三菱ケミカル、三井化学、旭化成、出光興産といった大手がそろって稼働率を下げた。

エチレンが減れば、そこから派生するプラスチックも合成樹脂も有機溶剤も足りなくなる。
食品の包装材、調味料のチューブ、シャンプーのボトル、医療用の資材。
わたしたちの生活を構成するありとあらゆるものに、ナフサは化けている。

TOTOのお風呂は、その氷山のほんの一角にすぎない。

マクロの数字では「足りている」ように見えても、サプライチェーンのどこかで詰まれば、必要な場所に届かない。
きょうの受注停止は、まさにその現実を突きつけた出来事だった。

わたしが心配しているのは、この先のこと。

米イランの協議は決裂し、アメリカは「逆封鎖」に踏み切った。
停戦の行方はまったく見えない。
ホルムズ海峡が再び安全に通れるようになるまで、数カ月かかるとも言われている。
たとえ停戦が実現しても、機雷の除去や滞留した2000隻以上の船の処理に相当な時間がかかる。

政府が「4カ月分ある」と言うなら、その4カ月のあいだに何をするかが問われている。
中東に頼らない代替ルートの確立、石油化学産業の供給網の立て直し、そして国民への正確で丁寧な情報提供。

テレビのニュースをぼんやり見ていると、なんとなく「アメリカとイランがもめている」で終わってしまいがち。
でも、きょうTOTOの受注停止を知って「え、お風呂が買えないの?」と驚いた人は多いはず。

遠くの戦争と、きょうの暮らしはつながっている。
この危機は、わたしたちの「日常」にじわじわと、しかし確実にしみ込んでいる。

備蓄には限りがある。
外交にも限界がある。
でも、正確な情報を知ることで、わたしたちは備えることができる。
必要以上に怖がらず、でも楽観しすぎず。
いま起きていることを、ちゃんと見つめていたいと思う。

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